2019年6月19日水曜日

第55回「参火会」6月例会 (通算419回) 2019年6月18日(火) 実施

「世界遺産を考える集い」第16回目 「世界遺産 第2シリーズ」③  アジア・オセアニア Ⅰ 

4月から再スタートした「世界遺産第2シリーズ」(DVD10巻)は、2003年から数年間にわたってNHKがユネスコと共同しながら制作・放送してきたものを、小学館が地域別に再編集し「NHK世界遺産100」(1~5巻) 「NHK世界遺産100」(6~10巻) として刊行したものです。各巻20か所・計200か所を収録しています。第1シリーズ (本田技研の系列会社「ピーエスジー」制作の12巻) によるDVDと重複するものは約半分ありますが、重複するものは特に重要な世界遺産といっても過言ではありません。小学館版「NHK世界遺産100」は、各世界遺産へのアプローチの仕方に独自性があります。

前半は、下記資料「2-3-1~20」が事前にメンバーに渡され、全員がこれを読んだ上で、「NHK世界遺産100」第3巻目の映像約95分を視聴しました。




2-3-1   白神山地 既出…1-12-5
自然遺産 青森・秋田県 1993年登録 登録基準⑨
◇ 白神山地は約8000年前に形作られた世界でも最大級のブナの原生林。強い復元力を持つブナは豪雪に耐え雪解けとともに芽吹き大きな葉が雨を根元に蓄え、初雪が降るまで葉を落とさない。生長が遅く20mの高さになるまでに100年かかる。里の人たちは今も、森の奥に「白い神」が住むと信じる。

2-3-2   白川郷・五箇山 既出…1-12-1
文化遺産 岐阜・富山県 1995年登録 登録基準④⑤
◇ 日本有数の豪雪地帯の飛騨高地にある集落で、屋根が両手を合わせたように見える合掌造りの家屋で知られる。茅葺き屋根の葺き替えは40~50年に一度、田植え前の農閑期に村人総出で行われる。そこには、暮らしを支えあってきた人々のつながりと伝統がある。

2-3-3   知床 既出…1-12-6
自然遺産 北海道 2005年登録 登録基準⑨⑩
◇ アムール川(黒竜江)の大量の真水がオホーツク海に流れ込んで流氷が生まれ、北風と海流によって知床半島まで運ばれる。流氷には栄養分が溶け込んで知床の海は豊かな生命をはぐくみ、オキアミなどのプランクトン・小魚・スケトウダラと生と死の循環がくりかえされる。河川にはサケやマスが遡上してヒグマやキタキツネ、シマフクロウなどの鳥類を支える。

2-3-4   高句麗古墳群
文化遺産 北朝鮮 2004年登録 登録基準①②③④
● 謎多き高句麗文化をつたえる壁画古墳
「高句麗古墳」は、4~7世紀(騎馬民族の高句麗王国中・後期)に今の中国東北部から朝鮮半島北部につくられたもの。墓室内部に美しい壁画を残す古墳は約100基あるが、北朝鮮の首都ピョンヤン近くの16基の古墳が登録された。壁画は王を先頭とする華やかな行列から台所での調理の様子まで多岐にわたる。日本の高松塚古墳に描かれた女性像そっくりのものもあり、高句麗王国が日本と深い結びつきがあったことがわかる。この「高句麗古墳群」と同時に、中国では「古代高句麗王国の首都と古墳群」が登録された。なお、日本と北朝鮮には国交がないため、入国には中国ビザの代理申請をし、中国総領事館から認定を受けたツアーに参加する方法などがある。

2-3-5   九寨溝 既出…1-6-12
自然遺産 中国 1992年登録 登録基準⑦
◇ 渓谷(溝)にチベット族の暮す村(寨)が9つあることから「九寨溝」の名がついた。大小100を超える湖が数珠のように50㎞もつながる秘境。海底が隆起したことで多量の石灰が岩や土砂に付着し、水の色が微妙に変化する神秘的な景観を作り出す。

2-3-6   武陵源
自然遺産 中国 1992年登録 登録基準⑦
● 地殻変動によって隆起した「奇岩の森」
武陵源のある湖南省は、中国大陸を西から東に流れる長江(揚子江)中流部に位置する。「武陵源」は、標高1000mの山岳地帯にあって、高さ100~400mの巨大な岩(珪岩=けいがん)の柱が3100本以上も林立する秘境中の秘境。2500年ほど前から少数民族トゥチャ族やミャオ族が、外部と切り離された独自の社会を作ってきた。この一帯はもともと海で、1億8千万年前から続く地殻変動により隆起した海底の石英砂岩層が風化したことにより、独特の景観となった。総面積380㎢のうち、中心地区の7割が一般公開されている。なかでも「天子山自然保護区」は武陵源随一といわれ、雲海に浮かぶ壮大な奇岩の森はまさに絶景。ロープウェイを利用すれば雄大な景観を楽しむことができる。「張家界国家森林公園」には、標高1200mの黄石寨山頂から、深い森と岩峰群が織り成す山水画さながらの世界を一望に収められる。「袁(えん)家界自然保護区」は、標高1000mほどのところに断崖絶壁の絶景が続き、山頂へは50名ほどを一度に運ぶ百龍エレベーターで上ることができる。また、武陵源には氷河期を生き抜いた落葉高木キョウドウをはじめ3000種以上の植物、チュウゴクオオサンショウウオなど絶滅危惧種を含む希少動物も多く生息する。

2-3-7   アユタヤと周辺の歴史地区 既出…1-5-9
文化遺産 タイ 1991年登録 登録基準③
◇ 「アユタヤ」はチャオプラヤ川など3河川が合流する中州にあり、14世紀に成立したアユタヤ王朝の都・インドシナ半島を支配した国際都市として400年間も繁栄した。アユタヤ朝33人の王はスリランカ系の上座部仏教(小乗仏教)を篤く信仰し、約400の寺院を建設した。アユタヤに残る仏塔には仏舎利の代わりに王たちの遺骨が収められ、仏像は仏陀であると同時に王の肖像でもあった。

2-3-8   アンコール遺跡群 既出…1-5-11
文化遺産 カンボジア 1992年登録 登録基準①②③④
◇ 1113年、国内を統一したスールヤヴァルマン2世が30年余の歳月をかけて建設したアンコール・ワットは、ヴィシヌ神を祀るヒンドゥー教の寺院で、クメール王国の栄華を伝える聖なる遺構。1432年にタイのアユタヤ朝にほろぼされるまで26人の王を輩出し、インドシナ半島の大半を支配した。1860年に博物学者に発見されて世界の注目を集めたものの、1970年代にカンボジアの内戦が始まると、アンコールの遺跡群も破壊や崩壊の危機にさらされた。1991年に停戦後は、日本の上智大をはじめとする国際的な修復支援や保存作業が行われ、往時の姿がよみがえりつつある。

2-3-9   古都ホイアン 既出…1-6-2
文化遺産 ベトナム 1999年登録 登録基準②⑤
◇ 外国との交易で発展したホイアンは、17世紀には日本商人が数百人も訪れ、日本町もあった。1593年日本人が建設した屋根付きの橋・日本橋は、鎖国によって日本人が去った後に中国商人が架け替えて来遠橋と呼ばれ、今も行き交う人に利用されている。多様な文化を取り込んだ古い街並みの港町もやがて中国風になっていった。現在、中国人薬商の家や漁師の家などが往時の姿で残っており、一部が一般公開されている。

2-3-10 ミーソン聖域 既出…1-6-1
文化遺産 ベトナム 1980年登録 登録基準④
◇ ミーソンは、7世紀からベトナム中部に栄えたチャンパー王国の聖地。王国はインドネシア系チャム族が築き、ヒンドゥー教が信仰されたことで13世紀までにシヴァ神を祀るたくさんの宗教施設が建てられた。とくに歴代の王たちによる70以上の塔がミーソン遺跡の特徴。塔には王の姿のシヴァ神が祀られ、無数の彫刻が飾られていた。ベトナム戦争での破壊を乗り越え、今も修復が続く。

2-3-11 グヌン・ムル国立公園 既出…1-6-18
自然遺産 マレーシア 2000年登録 登録基準⑦⑧⑨⑩
◇ ボルネオ島北西部にあるグヌン・ムル国立公園には、標高2371mのグヌン・ムル山などの高山が聳え、広大な熱帯雨林が拡がる。森は動植物の宝庫であり、地下は世界最大規模の洞窟群がある。4つの洞窟が公開されているが、ボルネオ島最大の洞窟ディアケーブでは、晴れた日の夕暮に数百万羽というグールドカグラコウモリの群れが餌を求めて飛び立つ幻想的な光景に出会える。ジャングルには哺乳類67種、チョウ281種、鳥類262種が生息する。

2-3-12 ビガン歴史地区
文化遺産 フィリピン 199年登録 登録基準②④
● スペイン植民地時代の情緒あふれる港町
ルソン島の南シナ海を臨むビガンは、16世紀後半スペインに征服され、中国やメキシコとの交易で発展した。南北1㎞の石畳には約30軒のスペイン風の重厚な石造の建物が軒を連ね、西洋風の街並みを今に残す。第2次世界大戦で焼失の危機にあったとき、街を救ったのは日本軍の司令官によるフィリピン人の妻と二人の娘への愛だった。

2-3-13 コルディエラの棚田
文化遺産 フィリピン 1995年登録 登録基準③④⑤
● 2千年にわたって受け継がれた棚田
ルソン島北部に位置するコルディエラの山裾に連なるライステラスと呼ばれる棚田は、少数民族イフガオ族によって作られたもので、標高1000~2000mの斜面に広がっている。この棚田を生んだ農耕技術は、2千年にわたって口承によって受け継がれ、急斜面に沿って広がる景観は「天国への階段」と呼ばれてきた。棚田の畦をつなげると、2万㎞にもなり地球を半周するという。棚田の幅は2~3m、壁や石垣の部分は30㎝ほどしかないため、農作業は水牛を使うことがあるもののほぼ人力で行われる。しかし、米を大切にし、自給自足の生活をしてきたイフガオ族は、いま転機を迎えている。棚田に水を供給してきた森は、伐採によって水を蓄える力を失いつつあり、村にも貨幣経済の波が押し寄せて若者が出稼ぎをするようになってきたこともあり、2001~12年までこの地は危機遺産リストに登録された。ユネスコは伝統的な知識を次世代に伝えるための活動などの保全対策を進めている。

2-3-14 タージ・マハル 既出…1-5-7
文化遺産 インド 1983年登録 登録基準①
◇ 17世紀にムガル帝国の第5代皇帝シャー・ジャハーンが、36歳の若さで亡くなった愛妃ムムターズ・マハルのために建てた霊廟建築。白亜の大理石が柔らかな曲線を描くドーム、天国の象徴である星型の文様が芝生や敷石にも使われる庭園など、イスラム文化の様式で貫かれている。

2-3-15 モヘンジョダロ遺跡
文化遺産 パキスタン 1980年登録 登録基準②③
● インダス文明最大の計画的都市遺跡
世界4大文明のひとつのインダス文明は、BC2000~1800年頃インダス川流域に興り、1850年代にハラッパー遺跡が発見されたのがきっかけとなって、今日までに東西1600㎞、南北1400㎞もの広大な地域に300近い遺跡が発見されている。モヘンジョダロ遺跡は、1922年にインド人考古学者によって発見され、その後の詳細な調査により、優れた水利システムで上下水道が完備され、排水溝は道路に沿って伸びているなど、高度に発達した文明による計画都市であることが判明した。丘の上に神官階級が住んでいた城塞地区と庶民が居住していた市街地区に二分される。城塞地区には穀物倉庫・大沐浴場・集会所など公共施設が設けられており、なかでも12×7mの大沐浴場は宗教儀式などが行われた重要な施設と考えられている。市街地区は、都市計画が行き届き、幅10mの大通りをはじめ碁盤目状に区画され、通りに排水溝やごみ箱が設けられた衛生的な都市だった。しかし、現在は地下水位が上昇し、塩害により遺跡崩壊の危機に瀕している。

2-3-16 聖地キャンディー 既出…1-5-16
文化遺産 スリランカ 1988年登録 登録基準④⑥
◇ キャンディー王朝が16世紀に建てた「仏歯寺」は、仏陀の糸切り歯を祀る寺。王権の象徴である仏歯を年に一度持ちだす「ぺらへら祭」では、仏歯を乗せたゾウを中心にした行進が10日間も続く。災いを払う火の粉がまき散らされ、祭りはクライマックスを迎える。

2-3-17 ペトラ 既出…1-7-12
文化遺産 ヨルダン 1985年登録 登録基準①③④
◇ ペトラは、2000年前に砂漠の隊商を支配した古代ナバテア王国の都だった。土木技術や芸術にも優れた才能を発揮し、巨大な砂岩を刻んで壮麗な建物をつくり、900㎢の地域に王宮をはじめ、劇場、神殿、浴場など800もの建物を残したと推定されている。

2-3-18 バム遺跡
文化遺産 イラン 2004年登録2007年範囲拡大 登録基準②③④⑤
● 交易で繁栄したオアシス都市
イラン南部高原の砂漠地帯にあるバムは、紀元前にさかのぼる歴史を持ち、7~11世紀にシルクロードとインドへの交易路交差する交通の要衝として全盛期を迎えた。絹や綿製品の生産地としても知られ、古くからカナートと呼ばれる地下用水路を活用して、豊かなオアシス生活が営まれていたと推定される。16~18世紀に度重なる異民族の侵入で無人となった。2003年の大地震で潰滅的被害を受けたが、ユネスコはバムの復興支援も兼ねて2004年に登録すると同時に危機遺産にも緊急登録した。そして2013年6月、遺跡の修復・保全活動が評価されて危機遺産リストから除外された。かつての姿を再現する大きな手がかりとなったのは、NHKが地震前に撮影した映像だったという。

2-3-19 カッパドキア 既出…1-4-9
複合遺産 トルコ 1985年登録 登録基準①③⑤⑦
◇ トルコ中部にあるカッパドキアは、「妖精の煙突」と呼ばれる奇岩が林立していることで知られているが、ここには数千年におよぶ人の営みがあった。岩山の穴にキリスト教徒たちはフレスコ画で修飾した教会を作った。その後、敵の攻撃から身を隠すために地下8階にも及ぶ地下都市へと発展する。

2-3-20 ニュージーランド亜南極諸島
自然遺産 ニュージーランド 1998年登録 登録基準⑨⑩
● 暖流と寒流の合流する多様な生物の繁殖地
「ニュージーランド亜南極諸島」の登録範囲は、ニュージーランドの南200㎞のところにあるスネアーズ諸島・アンティポデス諸島・オークランド諸島・バウンティ諸島・キャンベル島と島々の周囲約22㎞の区域で、総面積は約764㎢。多くの貴重な昆虫・鳥類・植物などが生息していて、現在確認されている鳥類は約120種、海鳥は40種に及ぶ。スネアーズ諸島の近海では、寒流と暖流が衝突して大量のプランクトンが発生し、それを食べる魚類がたくさん集まってくるため、鳥たちにとっては絶好の繁殖地となっている。スネアーズ・ペンギンは、海辺から4時間も歩き通し、森の奥にたどり着く。ペンギンの祖先は森の中に巣を作る海鳥で、この島のペンギンは太古の暮らしを留めている。また、絶滅危惧種のニュージーランド・アシカの95%が亜南極諸島に生息している。生態系を維持するため、この地域への立ち入りは厳しく制限されている。


今回は、「2-3-8  アンコール遺跡群」視聴後に、この遺跡がカンボジア内戦により破壊や崩壊の危機におちいったこと。1993年に上智大学の石澤良昭教授を中心とした「アンコール遺跡調査団」が結成され、修復支援や保存を行ったことで2004年に危機遺産リストから脱し、今も活動を続けていること。その活動への支援のきっかけがNHKの「プロジェクトX」の感動的映像だったことから、過去16回にわたる「世界遺産を考える集い」で視聴してきたDVDの貸出制が提案され了承されたことから、次回例会で詳細内容プリントを用意することになりました。
後半は、NHKに復帰した山本明夫氏の近況報告でしたが、前回に続き今回も中途半端に終わって失礼しました。そこで、次回以降は映像の視聴は1/2とすることにしたいと考えております。なお、今回初参加のイザンベール真美さんは、「法国卒」とありますが、「法学部国際関係法律学科卒」で外国語学部フランス語学科(外仏)からの転部だそうです。卒後は、東京大学大学院国際関係論博士課程を修了し、現在、上智大学と東京外語大学で政治学・国際政治学の講師をされています。蕨南暢雄氏の紹介によるもので、今後は常連メンバーとして参加してくれることを期待いたします。
(文責 酒井義夫)


「参火会」6月例会 参加者
 (50音順・敬称略)


  • イザンベール真美 1990年法国卒
  • 小田靖忠  文新1966年卒
  • 草ヶ谷陽司 文新1960年卒 
  • 酒井猛夫  外西1962年卒
  • 酒井義夫    文新1966年卒
  • 菅原 勉  文英1966年卒
  • 反畑誠一  文新1960年卒
  • 山本明夫  文新1971年卒
  • 蕨南暢雄  文新1959年卒